大判例

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東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)27号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二 引用例記載の考案の内容が審決の理由1摘示のとおりであり、本願発明と右考案の相違点が同2(イ)(ロ)(ハ)摘示のとおりであることは当事者間に争いがないところ、原告は右両者の同一性を争うので、右相違点に対応すると認められる原告主張の本願発明の三要素が右考案に開示されているか否かについて検討する。

1 技術的課題について

光伝送用フアイバーに用いられるガラス繊維がきわめて細いためその機械的強度を高めることが本願出願前において当業者間の技術的課題であり、本願発明も右課題解決を目的としたものであることは被告も明らかに争わないところ、成立に争いのない甲第三号証によれば、前記引用例記載の考案も二重の被覆により、漏洩光の処理のほかガラス繊維の機械的強度の向上を目的としたものと認めることができるから、両者の技術的課題は共通しているものということができる。

2 ガラス繊維の素材について

光伝送用フアイバーとして石英ガラスを主成分とするガラス繊維が本願出願前において周知であつたことは当事者間に争いがなく、本願の出願日が昭和四九年三月二〇日であり、引用例の出願日が同年二月二七日であることも当事者間に争いがないことに徴し、右の事実は引用例出願時においても周知であつたということができる。そして、成立に争いのない乙第三号証によれば、石英ガラスが伝送時の損失がきわめて低く、光伝送用ガラス繊維素材として好ましいものであることが認められるところ、前掲甲第三号証によれば、引用例には、「本考案は光通信ケーブルに関するものである。光を伝送媒体として通信を行う場合の光通信伝送方式としてはレンズ、反射板等の収束素子を同期的に配列したビームガイド方式、空間を用いる空間伝達方式及び光に対し透明な媒質を使用する方式がある。本考案はこれらの方式のうち最後の方式によるもので、光に対して透明な媒質例えばガラスで作られた繊維状線路を使用する光通信ケーブルの新規な構造である。」との記載(一頁一一行ないし一九行)があることが認められ、これによれば、引用例記載の考案もガラス繊維による光伝送方式に関するものであるから、右ガラス繊維も光伝送用ガラス繊維素材として好ましいとされている周知の石英ガラスを当然包含しているものと認めることができる。

原告主張の多成分ガラスが引用例出願当時研究対象とされていたとしても、石英ガラスの右のような性質からみて、これが引用例記載の考案に含まれていると認めることを妨げるものではない。

3 第一次被覆として分子中に極性基を有する液状の樹脂組成物等を塗布焼付して形成される被覆層について

引用例に熱硬化性樹脂の例として記載された「不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、フエノール樹脂、ポリウレタン樹脂」が本願の明細書に記載された極性基を有する樹脂組成物と一致することは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第七号証には「熱硬化性のアミノアルキド樹脂塗料・アクリル樹脂塗料は代表的な焼付乾燥形塗料で、短時間でかたくて付着のよい強固な仕上げが得られる。フタル酸樹脂塗料・エポキシ樹脂塗料・ポリウレタン樹脂塗料・シリコン樹脂塗料・ふつ素樹脂塗料などにも熱硬化形のものがあり、これらは焼付乾燥をする。」と記載され(三七〇頁四行ないし七行)、成立に争いのない乙第八号証には「高分子量エポキシ樹脂とフエノール樹脂を約七五対二五の割合に配合する。極性が高いのでメチルエチルケトン、イソプロピルアルコール、トルエンなどを主体とした混合溶剤を用いる。硬化促進剤としてリン酸が用いられるが、それでも十分な硬化には一七五度Cで六〇分の焼付けが必要である。」と記載(五四頁二二行ないし二五行)されていることが認められる。これらの記載によれば、引用例出願前熱硬化性樹脂の一般的な被覆手段として塗布焼付の方法が周知であつたものと認められるから、引用例記載の考案における第一次被覆である熱硬化性樹脂の被覆層も本願発明同様右のような塗布焼付の手段によつて形成されたもの、或は少なくともかかる手段を排除するものではないものということができる。

右乙第七、第八号証は原告主張のように塗布技術一般に関する文献であるが、被覆層の形成手段は被塗物の種類を問わずその被覆材に用いられるその当時に知られていた一般的な被覆技術によるものと推定するのが相当であり、右推定を覆すに足りる特段の事情が認められない以上この点に関する原告の主張は理由がない。

4 第二次被覆として熱可塑性樹脂組成を溶融押出して形成される被覆層について

成立に争いのない乙第六号証によれば、電線のような線状物に対し種々のプラスチツクが溶融押出の方法による被覆材として用いられていることが引用例の出願前において周知であつたことが認められる。しかして、引用例記載の考案では最外層(第二層)がプラスチツク保護層で被覆されていることは当事者間に争いがないところ、右考案においてもプラスチツク被覆に当つては右の周知の溶融押出の方法によつたものと認めて差支えないものというべきである。もつとも、引用例の場合、前記のように塗布焼付による熱硬化性樹脂により形成された第一次被覆層を介した第二層としてプラスチツクを被覆するもので、ガラス繊維にこれを直接被覆するものではないが(前掲乙第六号証は熱可塑性樹脂組成物であるポリアミドをガラス繊維に直接溶融押出することにより被覆する方法を開示するものである。)、かかる被覆が困難であると認むべき証拠はない。かえつて、引用例の場合においては既に被覆により保護されている第一層の上に被覆を施すのであるから、もろさに対する配慮はガラス繊維に直接被覆をする場合に比し少なくてよいはずであり、かかる観点からも第二次被覆を溶融押出により形成することが困難であるとは考えられず、ほかに右認定を妨げる事情は見出しがたい。

しかして、引用例記載の考案における第二次被覆として保護層を形成するプラスチツクが本願発明の第二次被覆を形成する熱可塑性樹脂組成物を含むことは当事者間に争いがないから、右考案における第二層が溶融押出の方法により形成されるものと認められる以上、この点において右考案は本願発明の構成を含むものというべきである。

三 原告は本願発明における三要素の選択的組合わせを特徴的構成として主張し、それにより引用例記載の考案と異なる相乗的複合効果を生ずる旨強調するが、右にみたように、引用例記載の考案においても本願発明におけると同じ三要素を組合わせた構成が含まれている以上、引用例記載の考案は本願発明の構成を開示するものであつて、両者は同一構成のものといわざるを得ない。そして、かように両者の構成が同一であると認められる以上、そのもたらす効果もまた差がないものというべきである。したがつて、原告の前記主張は採用できない。

四 本願発明と引用例記載の考案において、各出願人、発明者、考案者とも同一でないことは当事者間に争いがないから、本願発明は特許法二九条の二第一項に該当し、特許を受けることができない。

五 以上のとおりであるから、原告の本訴請求を失当として棄却する。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

石英ガラスを主成分とする光伝送用ガラス繊維の上に、分子中に極性基を有する液状の樹脂組成物、あるいは分子中に極性基を有する液状又は固状の樹脂組成物を溶液に溶解あるいは分散させて得られる溶液あるいは分散液を塗布焼付けさらにその上に熱可塑性樹脂組成物を溶融押出被覆することを特徴とする光伝送用フアイバー。

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